再生医療とは

 

 

 

 

 

再生医療

Regenerative Medicine

 

 

 

フィトメディカル研究所

 

 

 

 

 

はじめに

 

近年、脳卒中や脊髄損傷、慢性疼痛など、従来の医療では治療困難とされてきた疾患が、幹細胞を用いる再生医療によって完全ではないとしても、かなりの効果を示すことが明らかになってきています。
 ノーベル医学生理学賞を受賞された京都大学の山中伸弥教授が進められているiPS細胞を用いる再生医療を始めとして、日本は世界のトップレベルの再生医療技術を有しており、実際の臨床応用では世界を一歩、リードしています。
 ここでは、再生医療の基礎について解説したいと思います。

 

 

フィトメディカル研究所

博士(医学) 渡辺正仁

 

2021年3月

 

 

 

 

 

 

再生医療には大きく二種類あります

 

@置換療法(replacement therapy)

 

再生能力を持った自分自身の幹細胞を使う医療です。

 

 

幹細胞stem cellとは?

 

 私たちの体は常に変化しています。例えば皮膚の細胞は表面から剥がれ落ちる一方で、深いところから新しい細胞が作られ、約1月程度で入れ替ります。血液中の細胞も、肝臓、骨、消化管の内面の細胞なども少しずつ入れ替わっています。神経細胞や筋肉細胞のように、あまり入れ替わらない細胞もありますが、基本的には我々の体を作っている細胞は徐々に新しい細胞と置き換わっています。
 皮膚には皮膚の新しい細胞を作り出す基になる細胞があります。骨の中の骨髄には赤血球や白血球を作り出す基になる細胞があります。このように、新しい細胞を作り出す能力を持った細胞を幹細胞といいます。

 

 

A栄養因子療法 (trophic factors therapy)

 

幹細胞を体外で培養する際に、幹細胞はさまざまな因子(タンパク質)を産生し、培養液中に放出します。この因子を含んだ培養液を培養上清といいます。これらの因子は組織を修復したり、炎症を抑えたりすることで病態を改善する働きがあります。

 

 

実際の再生医療に当たっては、この2つの療法が同時に行われます。

 

 

 

培養上清を使用した再生医療に関しては、別の解説「培養上清」をご覧ください

 

 

 

 

 

再生医療

Regenerative Medicine

培養上清

 

 

フィトメディカル研究所

 

 

 

 

 

 

もくじ
01.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・ p03
02.培養上清とは・・・・・・・・・・・・・・・ p04
03.幹細胞が分泌する栄養因子・・・・・・・・・ p05
04.臍帯血幹細胞の特徴・・・・・・・・・・・・ p06
05.培養上清の効果・・・・・・・・・・・・・・ p07
06.アルツハイマー病と培養上清・・・・・・・・ p08
07.脳梗塞と培養上清・・・・・・・・・・・・・ p09
08.糖尿病と培養上清・・・・・・・・・・・・・ p10
09.劇症肝炎と培養上清・・・・・・・・・・・・ p11
10.心筋梗塞と培養上清・・・・・・・・・・・・ p12
11.関節リウマチと培養上清(1)・・・・・・・ p13
12.関節リウマチと培養上清(2)・・・・・・・ p14
13.脊髄損傷と培養上清・・・・・・・・・・・・ p15
14.急性呼吸不全と培養上清・・・・・・・・・・ p16
15.腎障害と培養上清・・・・・・・・・・・・・ p17
16.創傷治癒と培養上清(1)・・・・・・・・・ p18
17.創傷治癒と培養上清(2)・・・・・・・・・ p19
18.筋委縮と培養上清(1)・・・・・・・・・・ p20
19.筋委縮と培養上清(2)・・・・・・・・・・ p21
20.心筋線維症と培養上清・・・・・・・・・・・ p22
21.虚血性疾患と培養上清・・・・・・・・・・・ p23
22.皮膚老化と培養上清(1)・・・・・・・・・ p24
23.皮膚老化と培養上清(2)・・・・・・・・・ p25
24.培養上清の応用1(アンチエイジング)・・・ p26
25.培養上清の応用1(美容)・・・・・・・・・ p27
26.培養上清の応用1(軟骨修復)・・・・・・・ p28
27.培養上清の使用法・・・・・・・・・・・・・ p29
28.あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・ p30

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対症療法再生医療

 

対症療法:薬や手術などで疾病を治癒させるか,または臓器の働きを機械に代わってもらう療法.機械の代わりとしては,他人からの臓器移植があっただけです.

 

再生医療:我々の体を作っている細胞には寿命があり,ほとんどの細胞は新しい細胞と入れ替わっています.その基になる幹細胞を増やし,元気づけ,働きを良くして我々の体そのものを再生させる療法です.
 この幹細胞助ける成分は幹細胞自身が作り出します.この成分を人工的に幹細胞に作らせる.これを含んでいるのが「培養上清」です.

 

 

 

 

 

 

 

 

幹細胞を体外で培養する際に,幹細胞はさまざまな栄養因子を産生して,培養液中に分泌します.幹細胞を取り除いた,栄養因子を含んだ培養液を培養上清と呼びます.

 

幹細胞stem cellとは?

 

 私たちの体は常に変化しています.例えば皮膚の細胞は表面から剥がれ落ちる一方で,深いところから新しい細胞が作られ,年齢によって違いはありますが,約1月程度で入れ替ります.血液中の細胞も,肝臓,骨,消化管の内面の細胞なども少しずつ入れ替わっています.神経細胞や筋肉細胞のように,あまり入れ替わらない細胞もありますが,基本的には我々の体を作っている細胞は徐々に新しい細胞と入れ替わっています.
 皮膚には皮膚の新しい細胞を作り出す基になる細胞があります.骨の中の骨髄には赤血球や白血球を作り出す基になる細胞があります.このように,新しい細胞を作り出す能力を持った細胞を「幹細胞」といいます.幹細胞は1999年に初めて,骨髄中に発見されました.

 

 

 

栄養因子trophic factorsとは?
 幹細幹胞から分泌されるタンパク質で,細胞の増殖,分化を起こさせたり,炎症を抑えたり,免疫調整や細胞死を防ぐなど,それぞれの栄養因子(サイトカイン)は細胞の機能調節を行っています.

 

【参考】サイトカイン
細胞から分泌されるたんぱく質で,細胞と細胞との情報連絡に関与しています.幹細胞から分泌されるサイトカインは,他の細胞の増殖,分化,機能発現などを引き起こします.免疫や炎症に関係したものが多く,あるものは炎症を引き起こし,あるものは炎症を抑えます.

 

 

 

 

 

 

 

幹細胞が作り出す栄養因子は100種類以上あると言われています.すべてはまだ解明されていませんが,主なものを紹介します.

 

表 幹細胞が分泌する主な栄養因子


   因子                     役割


TGF                  細胞分化や細胞・組織の発生.
(トランスフォーミング増殖因子)
EGF                  細胞の増殖,組織・臓器の成長.
(上皮成長因子)
FGF                    血管新生や組織の再生.
(線維芽細胞増殖因子)
PDGF                 細胞分裂の促進,損傷組織の再生.
(血小板由来成長因子)
IGF              細胞分裂の促進や神経細胞の成長,損傷組織の再生.
(インスリン様成長因子)
VEGF                    血管新生や血管の成長.
(血管内皮細胞増殖因子)
IL                 多くの種類があり,抗炎症作用や免疫の調節
(インターロイキン)
HGF                肝臓の組織再生やその他の細胞の増殖促進.
(肝細胞増殖因子)
NGF                 神経細胞の維持,修復,神経の機能回復.
(神経成長因子)
CNTF                    神経幹細胞の増殖促進.
(毛様体神経栄養因子)
MCP                 幹細胞をダメージを受けた場所に導く.
(単球走化性タンパク質)


 

 

 

 

 

 

 

 

最初に研究対象となった幹細胞は,骨髄由来の幹細胞でした.次いで,脂肪組織や臍帯などにも幹細胞が発見されました.骨髄由来の幹細胞は年齢と共に減少します.

 

 臍帯血由来の幹細胞には大きな特徴があります.

 

@ 臍帯血には,非常に元気の良い幹細胞が大量に含まれています.

 

A 従って,臍帯血幹細胞の培養液には大量の栄養因子が含まれます.

 

B 臍帯血由来幹細胞は,主要組織適合遺伝子複合体が少ない.

 

C 無菌的に採取できるため安全性が高い.

 

D 臍帯の採取は母体や胎児に全く影響を及ぼさない.

 

 

E 得られた幹細胞は増殖能が高い.

 

 

【主要組織適合遺伝子複合体】

 

細胞には他の細胞が「自己」の細胞であるか,あるいは「非自己」,すなわち他人の細胞であるかを区別するためのセンサーが備わっています.臓器移植などでは誰の臓器を移植しても良いというのではありません.いわゆる拒否反応に係わっています.血液型と似たところがあります.幹細胞もこのセンサーを持っているため,再生医療では「自己幹細胞」が使われます.

 

 幹細胞の培養上清には,幹細胞は含まれていませんが,このセンサーは細胞膜上にある糖タンパク質で,ちぎれて培養上清に混じる可能性があります.

 

 その点,臍帯血幹細胞はこの複合体がもともと少ないため,免疫反応も少ないのです.

 

 

 

 

 

 

 

培養上清の効果については,これまで多くの研究(動物実験が主)によって,さまざまな疾患に効果のあることが示唆されています.

 

 

 

 

 

以下に表に示した効果を報告した論文の概要を紹介します.

 

 

 

 

 

 

6.アルツハイマー病と培養上清(動物実験)

 

 

Mita T et.al.: Conditioned medium from the stem cells of human dental pulp improves cognitive function in a mouse model of Alzheimer’s disease. Behav Brain Res 293: 189-197, 2015.

 

ヒト歯髄由来の幹細胞馴化培養液はアルツハイマー病モデルマウスの認知機能を改善する.

 

アルツハイマー病は認知機能の低下と脳内β―アミロイド蓄積を特徴とする進行性の神経退行性の病気である.
ヒト脱落乳歯の歯髄由来幹細胞の培養上清の治療効果をアルツハイマーのモデルマウスを用いて検討した.
培養上清をマウスの鼻腔内に投与した結果,マウスの認知機能は有意に改善した.(対象物認知能解析法による)
培養上清には神経保護作用,神経軸索成長作用,神経伝達作用,抗炎症作用,ミクログリア調整作用などを持つ因子が含まれている.
培養上清はβ―アミロイドで引き起こされる炎症を抑えることで抗炎症作用のあるM2様ミクログリアを誘導することで効果を及ぼすのだろう.

 

 

【参考】馴化培地 conditioned medium
細胞培養では,培養する細胞の種類によって,必要な成分を添加した培養液を使用します.しかし人工的に加えた成分だけではうまく細胞は育ちません.細胞自身が自分に必要な成分を作り出して培養液中に分泌します.このようになった培養液を馴化培養液あるいは条件培地などと呼びます.

 

 

 

 

 

 

7.脳梗塞と培養上清(動物実験)

 

Inoue T et.al.: Stem cells from human exfoliated deciduous tooth-derived conditioned medium enhance recovery of focal cerebral ischemia in rats. Tissue Eng Part A, 1-2: 4-29, 2013.

 

ヒト乳歯由来の幹細胞馴化培養液はラット脳虚血からの回復を補助する.

 

幹細胞を用いる再生医療は脳卒中に有効な治療法である.
最近,筆者らは幹細胞がラット中大脳動脈を結紮した脳虚血傷害からの回復を早めることを報告している.
今回は幹細胞の培養上清のラット中大脳動脈結紮の治療に対する効果を検討した.
培養上清投与ラットは対照群に比べて運動機能や傷害部位の体積が有意に改善した.
神経前駆細胞の脳室周囲から傷害部位への移動が数日後に観察された.
培養上清は神経前駆細胞の移動や分化を促進し,血管再生を促進することで脳虚血の回復に役立つだろう.

 

 

【参考】脳虚血
脳梗塞は脳に酸素や栄養を送る血管が詰まった状態の病気です.血管が詰まることで,脳の血液が不足した状態を,脳虚血といいます.神経細胞は短時間でも血液供給が途絶えると,不可逆的な変化を起こします.

 

 

 

 

 

 

8.糖尿病と培養上清(動物実験と培養実験)

 

Izumoto-Akita T et.al.: Secreted factors from dental pulp stem cells improve glucose intolerance in streptozotocin-induced diabetic mice by increasing pancreatic ?-cell function. BMJ Open Diabetes Res Care, 3(1):e000128, 2015.

 

歯髄由来の幹細胞分泌因子はSTZで引き起こされた糖尿マウスのβ細胞の機能を改善することで耐糖能を改善する.

 

幹細胞移植は幹細胞がβ細胞に分化することなく,STZ糖尿マウスの病態を改善する多くの報告がある.
筆者らは幹細胞培養上清がβ細胞の生存と機能に与える効果を研究した.
培養上清の投与でインスリンの量が増加し,β細胞の体積も細胞分裂が増大することで増加した.
マウスβ細胞の培養で,培養上清は細胞からのインスリン分泌を増加させ,STZによるβ細胞死から保護した.

 

 

【参考】STZ(streptozotocin)
ストレプトゾトシンはマウスの膵臓にあるインスリンを分泌するβ細胞を破壊することで,糖尿病を引き起こします.

 

 

 

 

 

 

9.劇症肝炎と培養上清(動物実験)

 

Matsusita Y et.al.: Multifaced therapeutic benefits of factors derived from stem cells from human exfoliated deciduous teeth for acute liver failure in rats. J Tissue Eng Regen Med, doi:10.1002/term 2086, 2015.

 

ヒト脱落乳歯由来の幹細胞分泌因子のラット劇症肝炎に対する多面的な治療効果について.

 

肝臓の細胞は旺盛な再生能力を持つにも係わらず,劇症肝炎では幹細胞は死滅していくため,唯一,肝移植が治療法となっている.
筆者らは実験的に劇症肝炎を引き起こしたラットに幹細胞あるいは培養上清を静脈内投与して検討した.
両者ともに劇症肝炎を顕著に改善し,動物の致死率を改善させた.
培養上清は幹細胞移植と同様の効果を示したが,これは抗炎症作用に係わるM2様肝マクロファージの活性化によるところが大きい.
培養上清に含まれるサイトカインの分析では,幹細胞の細胞死を防ぐもの,血管再生を促すもの,肝臓の前駆細胞の分裂と文化を促すものが確認された.

 

【参考】劇症肝炎
肝細胞が急激に大量に破壊される病気で,非常に致死率の高い病気です.これまでは,肝臓の移植が唯一の治療法と言われているほどです.原因は肝炎ウイルス感染や薬物アレルギーなどが考えられています.

 

 

 

 

 

 

10.心筋梗塞と培養上清(動物および培養実験)

 

Tanigawa T. et.al.: Dental pulp-derived stem cell conditioned medium reduces cardiac injury following ischemia-reperfusion. Sci Rep, 5:16925, 2015.

 

歯髄由来の幹細胞馴化培養液は虚血再灌流による心臓の傷害を軽減させる.

 

心筋梗塞では経皮的冠動脈形成術や薬物療法が行われるが,組織に不可逆的な傷害を生じることから,依然として予後不良は多く致死率は高い.
 これまでにラット心筋梗塞モデルに対する幹細胞移植の心機能改善効果が報告されている.
本研究では培養上清の効果をマウスモデルとラット心筋細胞で検討した.
アポトーシスと炎症反応の抑制により心筋梗塞を縮小し,心機能を改善した.また,培養実験において心筋細胞のアポトーシスを減少させ,炎症性サイトカインの産生を抑制した.
本研究は培養上清が心筋細胞の細胞死を減少させ,炎症反応を抑制するという少なくとも2つの機序により 虚血再灌流後の心筋傷害から心臓を保護することを示した.

 

【参考】心筋梗塞
心臓に栄養や酸素を送っている冠状動脈が損傷を受けると,心臓を構成している心筋が障害されます.

 

 

 

 

 

 

11.関節リウマチと培養上清(動物実験)(1)

 

Ishikawa J et.al.: Factors secreted from dental pulp stem cells show multifaceted benefits for treating experimental rheumatoid arthritis. Bone, 83: 210-219, 2015.

 

歯髄幹細胞が分泌する因子群は実験的リウマチ性関節炎(RA)に多面的な治療効果を示す.

 

幹細胞移植は RA に対する新たな治療戦略として注目されているが,幹細胞が分泌する因子群のみによる治療効果の検証はなされていない.
今回,U型コラーゲン抗体誘導性関節炎モデルマウスに対して 培養上清を投与し,その治療効果を検証した.
培養上清はRAの症状を顕著に改善させた.
培養上清 には複数の治療効果因子が含まれており,抗炎症性 M2 環境を誘導する ことで,炎症および破骨細胞分化を抑制した.さらに培養上清 はオステオプロテゲリンを多量に含む ことで破骨細胞の分化を抑制した.

 

 

【参考】関節リウマチ
慢性関節リウマチは膠原病の一つです.関節内の滑膜が異常に増殖して,慢性の炎症が生じます.進行すると関節が破壊されます.
【参考】M2マクロファージ
マクロファージには炎症性 M1 と抗炎症性 M2 という2つのタイプが存在します.
【参考】オステオプロテゲリン
サイトカインの一種で,骨を作る骨芽細胞などで産生・分泌される破骨細胞分化抑制因子です.破骨細胞は骨を壊す作用を持つ細胞です.

 

 

 

 

 

 

12.関節リウマチと培養上清(動物・培養実験)(2)

 

Kay AG et.al.: Mesenchymal stem cell-conditioned medium reduces disease severity and immune responses in inflammatory arthritis. Science Rep, 7: 18019, 2017.

 

間葉系幹細胞馴化培養液は関節リウマチ炎の病態と免疫反応を軽減する.

 

実験的に関節リウマチを引き起こしたモデルマウスに間葉系幹細胞の培養上清を投与して効果を検証した.
培養上清は関節の腫脹を有意に抑えるとともに,軟骨を保護し,TNFαの誘導を阻害した.
培養上清はIL-10濃度を上昇させた.
培養上清は軟骨のダメージを抑え免疫細胞による炎症を,Treg作用を強め,Treg:Th17バランスを調節することで低下させた.

【参考】TNFα
サイトカインの1つで,強力な炎症作用を持つ.リウマチでは抗TNF療法が効果を示すのは,このサイトカインの働きを抑えるためです.
【参考】Treg:Th17
免疫細胞であるT細胞のうち,インターロイキン17(IL17)を産生するのをTh17細胞といいます.このTh17細胞の働きを調節する細胞が調節性T細胞,regulatory T(Treg)細胞です.IL17は炎症反応に係わる好中球を増殖させます.
【参考】IL-10
サイトカインの1つで,主に2型ヘルパーT細胞(Th2)より分泌されます.炎症反応を抑制する働きがあります.

 

 

 

 

 

 

13.脊髄損傷と培養上清(動物実験)

 

Matsubara K et.al.: Secreted ectodomain of sialic acid-binding Ig-like lectin-9 and monocyte chemoattractant protein-1 promote recovery after rat spinal cord injury by altering macrophage polarity. J Neurosci, 35:2452-2464, 2015.

 

分泌型Siglec-9細胞外ドメインとMCP-1はマクロファージ極性変換によりラット脊髄損傷後の回復を促進する.

 

ラットの傷害された脊髄のくも膜下腔内に培養上清を投与したところ,顕著な改善があった.
培養上清の作用としては抗炎症作用に係わるM2様肝マクロファージの活性化による抗炎症作用によるところが大きい.
培養上清のマクロファージに対する作用のメカニズムは分泌型Siglec-9細胞外ドメインとMCP-1によるマクロファージの極性変化によると考えられた.

 

【参考】脊髄損傷
脊髄は上肢や下肢からの感覚情報を脳に伝え,情報を基に脳から上肢や下肢に出される運動命令を中継する働きがあります.脊髄が損傷されると感覚が消失したり,運動麻痺が生じたりします.
【参考】マクロファージの極性変換
免疫系の細胞であるマクロファージは,存在する組織の環境変化に応じて変化します.例えば炎症を引き起こすように働いたマクロファージが,極性が変われば炎症を抑えるように働きます.
【参考】分泌型Siglec-9細胞外ドメインとMCP-1
Siglec-9は,免疫系の細胞の細胞膜上にあるシアル酸認識受容体です.またMCP-1は炎症性の細胞の活性化に働きます.MCP-1がSiglec-9に結合することで抗炎症作用を持つM2型のマクロファージに変化すると考えられています.

 

 

 

 

 

 

14.急性呼吸不全と培養上清(動物実験)

 

Wakayama H et.al.: Factors secreted from dental pulp stem cells show multifaceted benefits for treating acute lung injury in mice. Cytotherapy 17:1119-1129, 2015.

 

歯髄幹細胞が分泌する因子群はマウスの急性肺傷害に多面的な治療効果を示す.

 

これまで,各種幹細胞の移植によって,ブレオマイシンを用いて作成した肺傷害マウスモデルの病態改善効果が報告されている.
今回は培養上清を用いて,ブレオマイシンを用いて作成した肺傷害に対する効果を検証した.
培養上清は肺傷害モデルの病態を改善した.
培養上清の作用としてはサイトカインの分析から,抗炎症作用に係わるM2様肝マクロファージの活性化による抗炎症作用によるところが大きいと考えられた.

 

 

【参考】急性呼吸不全(急性呼吸窮迫症候群)
急速に進行する呼吸不全と肺の組織破壊に続く非可逆性の線維化を特徴とする炎症性疾患です.炎症と線維化を制御・抑制することが治療の鍵と考えられていますが,病態を直接改善するような有効な治療法はこれまでに開発されていません.

 

 

 

 

 

 

15.腎障害と培養上清(動物実験)

 

Liu B et.al.: Human umbilical cord mesenchymal stem cell conditioned medium attenuates renal fibrosis by reducing inflammation and epithelial-to-mesenchymal transition via the TLR4/NF-κB signaling pathway in vivo and in vitro.Stem Cell Res Ther, 9:17, 2018.

 

ヒト臍帯幹細胞の馴化培養液は腎線維症を炎症抑制とTLR4/NF-κBを介するシグナル伝達によって改善する.

 

腎線維症のモデルは片方の尿管を結紮して作成した
培養上清は細胞外マトリックスの沈着と炎症細胞の侵入を減少させるとともに,炎症を起こすサイトカインの分泌も抑えた.
培養上清は尿管結紮で引き起こされる腎線維化に対して保護作用を示し,TLR4/NF-κBを介するシグナル伝達を阻害することで抗炎症作用を起こさせた.

 

 

【参考】腎線維症
炎症を引き起こす細胞が腎臓に入り込み,線維芽細胞を活性化することで細胞外マトリックス産生を増加させ,腎不全を引き起こします.
【参考】TLR4/NF-kBシグナル伝達
TLR4とは受容体のことで炎症や細胞増殖などで重要な役割を持っています.これが刺激されると遺伝子を活性化するNF-kBという因子に働きかけが起こり,炎症性サイトカインが放出されたりします.

 

 

 

 

 

 

16.創傷治癒と培養上清(培養・動物実験)(1)

 

Arno A et.al.: Human Wharton’s jelly mesenchymal stem cells promote skin wound healing through paracrine signaling.Stem Cell Res Ther, 5:28, 2014.

 

ヒトホートンゼリー由来の幹細胞はパラクリンシグナル伝達によって皮膚創傷の治癒を促進する.

 

間葉系幹細胞はパラクリンシグナル伝達によって創傷治癒効果を示すことが報告されている.しかし,ヒトホートンゼリー由来の幹細胞のヒト皮膚に関する報告はない.
本研究ではヒトホートンゼリー由来の幹細胞やその培養上清を用いて,正常なヒト皮膚の線維芽細胞に対する効果を検証した.
ヒトホートンゼリー由来の幹細胞の培養上清は,皮膚線維芽細胞での皮膚再生や血管新生,および細胞増殖に関する遺伝子を発現させた.
実験動物でも培養上清は皮膚の創傷治癒を促進させた.

 

 

【参考】Whaton’s Jelly (ホートンゼリー)
臍帯にあるゼリー状の物質で,間葉系の幹細胞を多く含みます.
【参考】パラクリンシグナル伝達
ここでは,幹細胞が情報を伝達する物質を分泌して,近くにある細胞に効果を及ぼす方法です.

 

 

 

 

 

 

17.創傷治癒と培養上清(培養・動物実験)(2)

 

Li M et.al.: Mesenchymal stem cell-conditioned medium accelerates wound healing with fewer scars.Int Woun J, 14:64-73, 2017.

 

臍帯由来の幹細胞馴化培養液は皮膚創傷の治癒を促進する.

 

臍帯由来の間葉系幹細胞はパラクリンシグナル伝達によって皮膚の創傷治癒促進効果を示すことが報告されている.
線維芽細胞は皮膚創傷治癒に係わる主な細胞である.
臍帯由来の幹細胞の培養上清は,皮膚線維芽細胞の増殖と移動を促進させた.
さらに,成人から得られた皮膚線維芽細胞の筋芽細胞への分化程度は低かった.
また,培養上清は動物実験でコントロール動物の傷回復に比べてかなり良い程度まで皮膚の傷を回復させた.
臍帯由来の幹細胞の培養上清は,皮膚の創傷に傷跡が目立たなくさせるのに効果のある方法と言える.

 

【参考】パラクリンシグナル伝達
ここでは,幹細胞が情報を伝達する物質を分泌して,近くにある細胞に効果を及ぼす方法です.

 

 

 

 

 

 

18.筋委縮と培養上清(動物実験)(1)

 

Park CM et.al.: Umbilical cord mesenchymal stem cell-conditioned media prevent muscle atrophy by suppressing muscle atrophy-related proteins and ROS generation. In Vitro Cell Dev Biol Anim, 52: 68-76, 2016.

 

臍帯間葉系幹細胞馴化培養液は筋委縮関連タンパクと活性酸素の発生を抑えることで筋委縮を防ぐ.

 

薬物で筋委縮を起こさせた実験動物で,臍帯血由来間葉系幹細胞の培養上清の効果を検証した.
筋委縮関連タンパク(MuRF-1とMAFbx)と筋特異的タンパク(デスミンとミヨゲニン)を調べた.
上記のタンパク分析に加えて,活性酸素(ROS)の産生と抗酸化物質の量も分析した.
培養上清は量を増やすのに伴って筋委縮関連タンパクを減少させ,筋特異的タンパクを増大させた.
また,培養上清は活性酸素の産生を抑制し,抗酸化物質も正常値に戻した.
臍帯由来の幹細胞の培養上清は,筋委縮に有効であると言えるだろう.

 

【参考】筋委縮
寝たきりや不動状態による筋委縮(廃用性筋委縮)は多くの寝たきり患者を生み出すため,大きな社会問題となっています.
【参考】筋委縮関連タンパク
ユビキチンリガーゼと呼ばれるタンパク質で,筋委縮を引き起こすことが近年,報告されています.このタンパク質は骨格筋を構成しているタンパク質と結合して,骨格筋を分解する働きを持っています.

 

 

 

 

 

 

19.筋委縮と培養上清(動物実験)(2)

 

Kim MJ et.al.: Conditioned medium derived from umbilical cord mesenchymal stem cells regenerates atrophied muscles. Tissue Cell, 48: 533-543, 2016.

 

臍帯由来間葉系幹細胞の馴化培養液は筋委縮から再生する.

 

筋委縮を起こさせた実験動物で臍帯血由来間葉系幹細胞の培養上清の効果と作用機序を調べた.
筋委縮は後肢を2週間,釣り上げて起こさせた.
培養上清は後肢の筋肉に注射により投与した.
後肢を2週間,釣り上げると後肢の筋肉の体積や筋線維は有意に減少した.
 培養上清投与は筋委縮に対して改善効果を示した.
培養上清によって筋タンパク質は増大し,筋委縮関連タンパクは減少した.

 

【参考】筋委縮実験
今回の研究では,動物に筋委縮を起こさせる方法として,薬物投与ではなく,ヒトでの不動による廃用性筋委縮に似た条件を用いています.

 

 

 

 

 

 

20.心筋線維症と培養上清(培養実験)

 

Chen ZY et.al.: The conditioned medium of human mesenchymal stromal cells reduces irradiation-induced damage in cardiac fibroblast cells. J Rad Res, 59: 555-564, 2018.

 

間葉系幹細胞の馴化培養液は放射線による心線維芽細胞のダメージを軽減する.

 

 臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清の効果を放射線心筋線維症のモデルを用いて調べた.
 モデルはヒト心臓線維芽細胞を放射線照射して作成した.
培養上清は線維芽細胞の生育を増大させ,コラーゲンの沈着を減少させた.また,酸化ストレスを減少させ,抗酸化物質を増加させた.
 さらに培養上清はNF-kBのシグナル伝達を抑え,放射線による炎症を抑制した.
 培養上清投与はNF-kBシグナル伝達によるTGF-β1産生を抑制することで,心筋線維症を改善すると考えられた.

 

 

【参考】心筋線維症
心臓の筋肉(心筋)の筋タンパク質が減少し,線維化していく症状です.白血病の骨髄移植に際しては,全身に放射線を浴びせることで,心筋線維症を引き起こすことがあります.その他,肺癌,食道癌など胸部の癌や胃癌など胸部に近い消化器癌の放射線治療で心臓が大量の放射線に暴露されると心筋線維症を発症することがあります.

 

 

 

 

 

 

21.虚血性疾患と培養上清(培養実験)

 

Arutyunyan I et.al.: Role of VEGF-A in angiogenesis promoted by umbilical cord-derived mesenchymal stromal/stem cells: in vitro study. Stem Cell Res Ther, 7:46, 2016.

 

臍帯由来の間葉系幹細胞による血管新生でのVEGF-Aの役割:培養実験.

 

 ヒト臍帯のホートンゼリー由来の幹細胞培養上清を用いて,ヒト臍静脈由来血管内皮細胞(HA.hy926細胞)に対する効果を検証した.
 培養上清にはVEGF-Aは検出されなかったが,培養上清は血管内皮細胞の増殖を増大させ,運動性を高めた.
HA.hy926細胞を培養するとVEGF-Aの量が増大した.
 培養上清はVEGF-A以外の作用で,血管新生を促すと考えられた.
 VEGF-Aと培養上清が持つ何らかの作用の組み合わせが,血管新生を促すことに役立つと思われる.

 

【参考】虚血性疾患
脳梗塞や心筋梗塞など,臓器に分布する血管の血流障害により,酸素や栄養物が組織に運ばれないと,組織の細胞は死んでしまいます.出来るだけ速やかに,新しい血管を作ってやれば(血管新生)血流を回復することができます.
【参考】VEGF-A
血管内皮細胞増殖因子のことで,血管やリンパ管を作る働きがあります.一般に,間葉系幹細胞の培養液中に分泌される栄養因子の一つです.
【参考】 同様の研究がKuchroo P らによって報告されています(Stem Cells Dev, 24:437-450, 2015.)
【参考】 ここに引用した研究で不明だった物質はIL-1βであることがMohr Tらによって報告されています(PLoS ONE 12(6):e0179065, 2017.

 

 

 

 

 

 

22.皮膚老化と培養上清(培養実験,女性皮膚)(1)
Kim YJ et.al.: Conditioned media from human umbilical cord blood-derived mesenchymal stem cells stimulate rejuvenation function in human skin. Biochem Biophys Rep, 16:96-102, 2018.

 

臍帯血由来の間葉系幹細胞の馴化培養液はヒト皮膚の若返り作用を促進する.

 

 最近の研究は間葉系幹細胞が創傷治癒に重要な多くのサイトカインを分泌することを示している.
 本研究は,ヒト臍帯血由来幹細胞の培養上清の創傷治癒とコラーゲン合成に対する効果を検証した.
我々はこの培養上清が皮膚若返りに関連する多くの栄養因子を分泌することを確認した.
 培養実験で,培養上清はヒト皮膚の線維芽細胞の増殖と細胞外マトリックス産生を促した.
 ヒト臍帯血由来幹細胞の培養上清の効果は他の間葉系幹細胞の培養上清に比べて効果が大きかった.
 ヒト女性での研究は皺の改善効果と皮膚密度の増大が確認された.
 特にGDF-11の関与が考えられた.

 

【参考】GDF-11
老化抑制因子.TGF-βの仲間.GDF-11は加齢により減少し,GDF-11の投与は加齢に伴う心肥大を改善し,骨格筋ではGDF-11が骨格筋幹細胞の機能低下を改善するとされていますが,ごく最近では異なる見解も出されています(新村 健,日老医誌 53:10−17,2016).

 

 

 

 

 

 

23.皮膚老化と培養上清(培養・動物実験)(2)

 

Liu Q et.al.: Conditioned serum-free medium from umbilical cord mesenchymal stem cells has anti-photoaging properties. Biotechnol Lett, 35:1707-1714, 2013.

 

臍帯由来の間葉系幹細胞の馴化培養液は日焼けによる皮膚老化(光老化)を抑える効果がある.

 

 太陽光の長期暴露は日焼け老化と皮膚癌の主な原因である.
 ヒト臍帯由来幹細胞の培養上清は紫外線による日焼け老化に対して培養実験と動物実験で効果のあることが確認できた.
 この培養上清が皮膚の線維芽細胞の増殖を起こし,紫外線UVAによる細胞死を減少させた.
 また,培養上清は紫外線によるスーパーオキサイドディスムターゼの活性阻害を抑制した.
 培養上清はマウスの皮膚でのマロンアルデヒドの上昇を抑制した.
 これらは,ヒト臍帯由来幹細胞の培養上清が紫外線UVAとUVBによる日焼けによる皮膚老化を防ぐ効果を示す.

 

【参考】紫外線
紫外線は波長の違いで,UVC, UVB, UVAにわかれます.UVCは最も波長が短く,大気のオゾン層などで吸収され地表には届きません.UVAは最も波長が長く,物質を透過しやすい紫外線で,皮膚に徐々にダメージを与えます.また,メラニン色素を酸化させ,皮膚を黒くさせます.UVBは皮膚への強い作用を持ち,炎症やシミの原因となり,皮膚の細胞に対するダメージも大きいです.
【参考】マロンアルデヒド(マロンジアルデヒド)
紫外線により発生する化合物で,酸化ストレスの程度を知るための指標になっています.
【参考】スーパーオキサイドディスムターゼ
活性酸素を無害化する酵素です.

 

 

 

 

 

 

 

1.老化はなぜおこるのか?

 

  癌細胞は培養すると,いつまでも細胞分裂を繰り返して,生き続けます.しかし,正常な細胞は,次第に分裂速度が遅くなり,ついには分裂を停止して,死に至ります.老化とは,細胞の分裂速度が遅くなっていく過程とみなせます.

 

 最近の研究では,細胞分裂を停止するだけが老化ではなく,細胞,特に幹細胞が分泌する,さまざまな生理活性物質が老化を調節していることが明らかになってきました.これをSASP(Senescence-associated secretory phenotype;細胞老化随伴分泌)と言います.

 

 すなわち,幹細胞の働きを調節する環境因子が老化に重要な働きをするのです.

 

2.若い動物と老齢動物を結合すると,老齢動物が若返る

 

  若齢ラットと老齢ラットを外科的に結合すると,老齢ラットの筋肉や軟骨,脳や脊髄,心臓や肝臓などの若返りが認められることが,世界最高ランクの科学雑誌に掲載されました(Brack AS et al.: Science 317:807-810, 2007; Villeda SA et al.: Nature 477:90-94, 2011; Loffredo FS et al.: Cell 153:828-839, 2013).

 

これは,若齢ラットの血液に含まれる何らかの因子が,老齢ラットに働きかけたことを意味します.

 

3.SASPを抑え,良い働きの生理活性物質を供給するのがアンチエイジングのカギ

 

SASPで分泌される因子は,細胞の癌化や炎症を起こすことで老化を促進させます.良い働きの生理活性物質は組織修復,免疫抑制(炎症抑制)に関わることでアンチエイジングの作用を持ちます.

 

特に臍帯血由来の若い幹細胞は,良い働きの生理活性物質(栄養因子)を多く分泌することが,この小冊子に引用した研究で示されています.

 

 

 

 

 

 

 

1.肌の老化の特徴

 

  皮膚は体表面の表皮とその下の真皮からなります.真皮の下は脂肪組織に富んだ皮下組織があります.

 

●表皮の一番深いところには皮膚幹細胞があります.皮膚幹細胞が分裂して,新しい細胞は表面に向かって押し上げられてゆき,最後は角質細胞となって表面から垢となってはがれおちます.約2週間で表皮は新しい細胞と入れ替わっています.これをターンオーバーと言います.加齢に伴ってこのターンオーバーは徐々に遅くなります.

 

●真皮には肌の「うるおい」と「はり」を作り出すコラーゲンやエラスチンといったタンパク質およびゼリー状のヒアルロン酸が豊富に含まれています.これらの成分を作り出しているのが,線維芽細胞です.線維芽細胞の働きは加齢によって徐々に悪くなります.

 

2.肌の老化を促進するのは?

 

  一番の原因は紫外線や放射線です.太陽光にはこれらが含まれています.紫外線や放射線は表皮の幹細胞や真皮の線維芽細胞にダメージを与えます.この他,乾燥やストレス,栄養不良,睡眠不足などが老化促進の原因となります.

 

これらが,原因となり,肌に炎症が起こるのが最大の老化促進要因です.

 

特に臍帯血由来の若い幹細胞は,良い働きの生理活性物質(栄養因子)を多く分泌するので,その培養上清は皮膚幹細胞の働きを良くするだけではなく,炎症を抑えることで,肌の若返りを助けます.

 

 

 

 

 

 

 

1.関節を作る骨の表面は軟骨で被われています.

 

  関節軟骨は,軟骨細胞と軟骨細胞が作り出す細胞外マトリックスで構成されています.関節軟骨は,関節が滑らかに動くためにありますが,外傷や病気でダメージを受けます.関節軟骨の傷害は,関節運動の減少や痛みを引き起こします.

 

2.軟骨再生に新たな治療法の可能性!

 

Li L et.al.: Mesenchymal stem cells in combination with hyaluronic acid for articular cartilage defects. Scientific Rep, 8:9900, 2018.

 

軟骨障害に対する間葉系幹細胞とヒアルロン酸の混合療法.

 

 サルを用いた研究で,ヒアルロン酸だけでは軟骨再生は見られなかったが,骨髄由来の幹細胞と併用注射は,軟骨の再生を促した.

 

【参考】ヒアルロン酸
ヒアルロン酸は関節液(滑液)の主要な成分で,ヒアルロン酸の関節注射は膝関節炎の治療に用いられ,痛みの軽減などの効果があります.

 

この報告以外にも,関節軟骨の再生に幹細胞治療の有用性を示した報告が多数あります.これらは幹細胞を用いた治療ですが,幹細胞の培養上清が同様の効果を持つと考えられます.

 

 

 

 

 

 

 

培養上清は滅菌されたバイアルに封入されています.

 

@ 点鼻
鼻の粘膜から血液および脳脊髄液の中に成分が吸収されます.従って,脳内に早く,高濃度で運ばれるとともに,全身にも速やかに運ばれるため,効果の高い使用法です.家庭でも目薬を使うように,簡単に行えます.

 

A 塗布
顔の一部に使いたいような場合,皮膚に直接塗布しても成分が皮膚から吸収されるため,直接,肌の細胞に作用します.そのままですと,濃度が高いので,数滴,化粧水に混ぜて使用します.家庭で使用することができます.

 

B 点滴
クリニックで行う必要があります.数バイアルを点滴します.

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

これからの医療は,これまでの薬や手術による医療に加えて,「再生医療」の役割が大きな可能性を持って取り入れられていくでしょう.再生医療は2本の柱からなっています.

 

一つは幹細胞移植です.もう一つが,幹細胞自身が作り出す栄養因子を含んだ培養上清です.この2つを併用することで大きな効果を得ることができますが,今回紹介した「培養上清」だけを用いても,かなりの効果が得られることが最近の研究によって明らかにされつつあります.

 

今後の10年間でさらに多くの研究がなされ「培養上清」の有用性が明らかにされるでしょう.若くて元気の良い幹細胞が多く含まれた臍帯血から得られる培養上清はとても貴重で,製造にも最新の知識と設備が必要なため,まだまだ高価です.近い将来,大量に作られれば価格も下がり,多くの方が恩恵を受けられることになることを願っています.

 

2019年6月

 

医療法人 社団日翔会 理事長

医師 渡辺克哉

 

フィトメディカル研究所 所長

関西福祉科学大学名誉教授

医学博士 渡辺正仁

 

 

幹細胞 stem cell の力

 

再生医療に使われる幹細胞は、2つの能力を持っています。

 

@ 自己複製能

 

 1つの幹細胞が2つの幹細胞に分裂する能力

 

 

A分化能単細胞

 

 いろいろな種類の細胞に変化する能力

 

 

 

 

 

 

幹細胞には大きく2種類あります。

 

 

 

 

神経幹細胞    :神経系の細胞を作ります。
上皮幹細胞    :皮膚の細胞を作ります。
肝幹細胞     :肝臓の細胞を作ります。
生殖幹細胞    :精子や卵子を作ります。
消化管上皮幹細胞 :消化管の内面を覆う細胞を作ります。
造血幹細胞    :骨髄中に存在します。
          赤血球や白血球、血小板などを作り出します。

間葉系幹細胞   :胎生期の間葉に由来する幹細胞ですが、かなり色々な細胞
          (骨・軟骨・筋肉・脂肪・内臓組織・神経組織)
          分化する能力があります。

臍帯血幹細胞   :臍帯「へその緒」と胎盤に含まれる血液には増殖能力に
          優れた若々しい幹細胞が多く含まれています。

 

 

再生医療には骨髄から採取する「骨髄由来間葉系幹細胞」、 あるいは、
お腹や太ももなどの皮下脂肪から採取する「脂肪組織由来間葉系幹細胞」が使われます。

 

骨髄由来間葉系幹細胞: 

 

骨の中にある骨髄に含まれている幹細胞で、どのような細胞にもなれる多能性を持つことが報告されています。主には血球、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨格筋細胞などに分化することが知られています。採取できる量は多くありませんが、第三の万能細胞といわれるミューズ細胞も骨髄幹細胞に含まれています。

 

脂肪組織由来間葉系幹細胞:

 

皮下にある脂肪組織に含まれています。脂肪由来の幹細胞は、幹細胞の量が多く、様々な細胞(血管の細胞、心筋細胞、神経細胞、軟骨細胞、骨細胞、肝細胞など)に分化することが確認されています。第三の万能細胞といわれるミューズ細胞も脂肪組織由来間葉系幹細胞に含まれています。

 

【参考】ミューズ細胞Muse cells
さまざまな種類の細胞になる能力を持った幹細胞を多能性幹細胞といいますが、これらには、胚性幹細胞(ES細胞)と、iPS細胞が知られていました。ところが我々の結合組織中にも第三の多能性幹細胞が見つかりました。この細胞をMuse細胞といいます。Muse細胞は体に障害が生じると、その場所に移動して、あめーじを受けた組織を修復する能力を持っています。

 

 

@ 幹細胞を増殖させて患者さまの体内に戻し、
  傷んだ細胞を再生します。

 

再生医療の初期では、増殖させた幹細胞を直接、損傷した組織・臓器に注入していました。
しかし、現在では幹細胞を静脈内に注射するだけです。
これは幹細胞に「ホーミング」と呼ばれる性質があるからです。

 

 

ホーミングによって幹細胞が損傷された組織に集まり、目的の細胞に変化するとともに、
その場で様々な栄養因子も分泌して、損傷組織を修復、再生します。

 

A 幹細胞を体外で培養して増殖させます。この培養液(培養上清)には栄養因子が含まれています。栄養因子は幹細胞や周囲の細胞を元気づけ、再生を助けます。

 

従って、幹細胞と培養上清の両方を患者さまに戻すと、
相乗効果が得られます。

 

 

 

1 厚生労働省の認可を受けた医療機関
再生医療は「再生医療推進法」や「再生医療等安全性確保法」
で規定・規正されており、「特定認定再生医療等委員会」によ
り承認され、厚生労働省から計画番号を取得している必要があ
ります。

2 厚生労働省の認可を受けた施設での細胞培養
患者さまから採取した組織から、幹細胞を分離して、増殖する
のは国の認可を受けた専門施設で行う必要があります。

3  しっかりとしたインフォームドコンセント
十分な説明に基づいて、患者さまが「最善の治療」を選択でき
ることで治療による利益の過大評価と、リスクの過小評価を招
かない体制をとっていることが大切です。

4 トータルケア
単に現在の疾病治療だけでなく、患者さまのこの先の人生を通
しての健康維持を支援してくれる医療機関であることが望まし
いです。

D 個人情報保護

 

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